金曜時評

世界遺産 登録の意義議論を - 論説委員 増山 和樹

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 世界遺産の登録数が岩手や鹿児島と並んで日本一の奈良県にとって、今年は節目の年となった。登録30周年の法隆寺でライトアップイベントが行われたほか、「古都奈良の文化財」が登録25周年を迎えた奈良市では、6社寺の共通拝観券が発行されている。

 

 世界遺産は人類が未来に受け継ぐべき宝物であり、ユネスコの世界遺産委員会で登録が決まる。地元では認知度アップによる観光面の期待が大きいが、節目を機会に登録の意義を改めて考えることも重要だ。地域住民や来訪者がその価値を認識し、保護の気運が高まるよう、行政をはじめ、関係者が果たす役割は大きい。

 

 県などは県内四つ目の世界遺産として「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」の登録に向けた動きを早めている。本年度と見込まれていたユネスコへの政府推薦は文化審議会の意見を受けて選定見送りとなり、山下真知事は2026年の世界遺産登録を目指すとしている。

 

 そんな中、橿原市が今年夏に行った職員アンケートの結果に現れた「本音」は見過ごせないものだ。見直すべき事業として2番目に多かったのが世界遺産登録推進事業だった。集客効果や登録の可能性に厳しい意見が寄せられた。亀田忠彦市長は周知が足りないとの認識だが、「飛鳥・藤原」の世界遺産登録に意義を見いだせない職員が一定数いることが明らかになった。

 

 「鉄は熱いうちに打て」というが、職員がこのような認識に至る背景には、登録までの長い道のりがある。「飛鳥・藤原」が世界遺産候補として国の暫定リストに記載されたのは07年。それから16年が過ぎようとする中、ようやくゴールが見えてきたが、登録が保証されているわけではない。鎌倉のように世界遺産委員会で不登録となる可能性もある。

 

 「法隆寺―」が暫定リスト記載の翌年、「古都奈良―」が6年、「紀伊山地の霊場と参詣道」が3年で登録に至ったことを考えると、「飛鳥・藤原」が進んできた道の険しさが分かる。暗中模索の中で退職を迎えた担当者もいるだろう。

 

 「飛鳥・藤原」は橿原市のほか明日香村、桜井市に構成資産がある。登録はゴールではなく人類の将来に向けた継承の始まりだ。なぜ登録を目指すのか、登録の先に何があるのか、行政が改めて議論を深め、住民も巻き込んだアクションを起こす必要がある。登録ありきではいけない。

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