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「文学」「映画」「芸術」多彩なインドの魅力を伝える - 日本インド文化フェスティバル 奈良県開催

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インド僧 菩提僊那(ぼだいせんな)来日から1287年の時を経て

 インドと日本のかかわりを文化の側面から伝える「日本インド文化フェスティバル~インド僧 菩提僊那 来日から1287年の時を経て~」(在大阪・神戸インド総領事館主催、奈良新聞社共催)が11月5日、奈良市三条大路1丁目の奈良県コンベンションセンターで開かれた。トークイベントや映画上映、古典舞踊団によるパフォーミングアーツや音楽などを通して発信されたインドの魅力を、来場者はしっかりと受け止めた。

 

会場の奈良県コンベンションセンターに展示された写真パネル

 

第1部「文学」 芥川賞作家・石井遊佳さん サンスクリット文学者・石井裕さん夫妻によるトークショー

 第1部「文学」は「インドから得たもの」と題し、インドを舞台にした小説『百年泥』で第49回新潮新人賞、第158回芥川賞を受賞した石井遊佳さんとサンスクリット文学者の石井裕さん夫妻によるトークショーを開催。武智功・奈良新聞社特別編集委員がコーディネーターを務めた。

 

インドが舞台の小説で芥川賞を受けた石井遊佳さん
東京大学大学院博士後期課程(インド哲学仏教学)満期退学。中国仏教学専攻

 

サンスクリット文学者の石井裕さん
東京大学大学院博士後期課程(インド文学)満期退学。サンスクリット詩学専攻

 

身近なサンスクリット語 「旦那」は「ダーナ」

 武智 まずはインドへ行かれるきっかけとなったお二人の大学時代の研究についておうかがいします。


  私の専門はサンスクリット詩学。詩に関する学問です。サンスクリット語はインドで紀元前から知識人の共通語として広く使われていた言語で西洋のラテン語、ギリシア語を想定していただくとわかりやすいと思います。

 

 日本ではサンスクリット語は梵語とも呼ばれ、仏教経典の言葉というイメージが強いと思いますが、特に仏教専用の言葉というわけではありません。

 

 武智 なるほど。でも、仏教関連のサンスクリット語を語源とする日本語もたくさん残っていますね。たとえば南無阿弥陀仏などの「ナム」や摩訶不思議の「マカ」とか。

 

  確かに仏教関連の言葉が多いですが、サンスクリット語の一般的な言葉を語源とする日本語もいろいろあります。例えば「旦那」はサンスクリット語の「ダーナパティ」の「ダーナ」が中国語になったものが日本に入りました。元々の意味は常に布施をしてくれる人、パトロンというイメージです。

 

 あと、あまり良い言葉ではありませんが「馬鹿」はサンスクリット語の「モーハ」から来ています。元の意味は「心神喪失状態にある」「無知」ですが、「莫迦(=馬鹿)」は「モーハ」という発音を写したものです。

 

 

インドのお経と奈良の大仏さまとのつながり

 遊佳 私は修士論文で仁王(にんのう)般若経をとり上げました。このお経は「自然災害を寄せつけない」「外敵を撃退する」など、中国の権力者が仏教に期待したものを教えてくれます。いわゆる五穀豊穣、国家安寧ですね。

 

 皆さんは鎮護国家という言葉を日本史で習われたと思いますが教科書の同じページにたいてい奈良の大仏さんの写真があったはずです。民衆に「仏教は偉大なもの」と感じさせる巨大な仏像は護国的仏教のシンボル。東アジアに仏教が伝わった当初、そういう時代があったという視点も必要かと思います。

 

 武智 東大寺の大仏さんの開眼供養をされたのは今回の催しのタイトルにもなっているインド僧・菩提僊那。きれいにつながりましたね。

 

 

南インドが舞台の芥川賞受賞作『百年泥』

 武智 さて、ここからはお二人がインドで撮影されたスライドも交えてお話をすすめていきたいと思います。


 遊佳さんの芥川賞受賞作『百年泥』の舞台は南インドのチェンナイです。あらすじを簡単にご紹介すると元交際相手に勝手に名前を使われたサラ金の借金を返済するため、日本から来て日本語教師をしている女性がある日、百年に一度の大洪水に遭遇。アダイヤール川の氾濫で流れ出した「百年の泥」の中からは日本のウイスキーの瓶や人魚のミイラ、大阪万博記念コインなど様々なへんてこりんな物が出て来ます。

 

 そしておそらく百年泥の不思議な作用で、ちんぷんかんぷんだったはずの現地の言葉が突然理解できるようになった彼女は、泥が飲み込んでいた人々の過去、また自身の過去、そして世界の実相に目を開かれてゆく、そういうお話です。

 

 今、映し出されているスライドは『百年泥』に登場する橋を渡っておられるところでしょうか。

 

 遊佳 はい。橋は泥だらけで、人が通れるように両脇に泥が寄せられている状態でした。橋を渡りながらふと、百年に一度の洪水で出てきた泥だったら、この中には百年間の出来事や人間の心をよぎった喜怒哀楽など、さまざまなものが堆積してるんじゃないか、そう思ったんですね。

 

 そのほかの時間は、お祭り気分で川の様子を見に来た大勢の現地の人のおかげで全然前に進めないことにひたすらイライラしていたのですが(笑)。

 

 武智 遊佳さんが『百年泥』に続いて発表された作品もインドが舞台。ガンジス川の聖地、北インドのヴァーラーナシーをさまよう傷心の女子大生が「象牛」という名の不思議な動物に翻弄される物語です。

 

 

巨大さ、多様性がインドの魅力 朝焼けの絶景に魅了

 武智 さて、遊佳さん、裕さん、それぞれにとってのインドの魅力をお話しいただけますでしょうか。

 

  ありきたりかも知れないですが多様性ですね。あの大きさ、何でも包容して、取り込んで、そこに居させてくれる、そういうところが魅力だと思います。

 

 遊佳 インドの巨大さそのものでしょうか。私たちが暮らしたヴァーラーナシーとチェンナイの二箇所だけでも全然別の国に来たように違うんです。『象牛』の主人公の言葉を借りれば、地球の中に別の惑星がある、くらいのインパクトです。デリー在住の友人は、デリーの中でも違う惑星があるよ、と言っていました。

 

 そして、皆さんが、もし旅行に行かれるなら、私は北インドの強烈さをおすすめします。開口健は小説やエッセイの中で、繰り返しベトナムの夕焼けの素晴らしさを書いていますが、私はヴァーラーナシーの朝焼けにまったく同じレベルで心を動かされました。それを見るためだけにでも、どうぞ、皆さん、インドにいらしてください。


 武智 きょうは素敵なお話をありがとうございました。では最後に遊佳さんから皆さんへ、メッセージをお願いします。

 

 遊佳 私は10代の頃から、ものを読んだり、書いたりするのが大好きで、20代から小説を書いて応募する、いわゆる投稿生活を始めました。新人賞は53歳、芥川賞は54歳でいただいたので30年にもわたって夢を見続けてきたわけですが、私は一度も夢をあきらめようと思ったことはありません。

 

 だから皆さん、年齢に関係なく本気で夢を見てください。ただし、本気とは、夢みたいなことを考えるのではなく、夢に向かって努力をすること、決してあきらめないことです。人間は夢を見るために生まれてきたんだ、ということを、どうぞ、信じていただきたいです。

 

「インドから得たもの」と題して展開したトークショー

 

第2部「映画」 インド映画『苦い風』ニーラ・マーダブ・パンダー監督 インド映画評論家・高倉嘉男さん 共同通信文化部・加藤朗記者によるトークショー

 第2部「映画」は気候変動を主題としたインド映画「Kadvi Hawa(邦題『苦い風』)」(100分)の上映に続いてトークショーを展開。同作品のニーラ・マーダブ・パンダー監督とインド映画評論家の高倉嘉男さん、共同通信文化部で国内外の新作映画や映画祭などの取材を担当している加藤朗記者が同作品を中心にインド映画について語り合った。コーディネーター役と通訳は高倉さんが担った。

 

ニーラ・マーダブ・パンダー監督

 

インド映画評論家の高倉嘉男さん

 

共同通信文化部の加藤朗記者

 

気候変動と貧困を描く 実存する地域の物語

 高倉 まず、加藤さんから映画『苦い風』の感想をお願いします。


 加藤 日本に住んでいる私たちが見ることの少ない地方の人々の暮らしが非常に繊細に描かれていて興味深く拝見しました。気候変動や地方の貧困、物価上昇などの社会問題をうまく取り込んでいて、作家性の高い社会派の映画だと感じました。

 

 監督 この作品では実在する地域の物語を描きました。極端な気候の2つの地域、ひとつは雨が降らず何年も干ばつに見舞われ続けるブンデールカント地方、もうひとつは、しばしば巨大なサイクロンに襲われるオディシャ(オリッサ)州沿岸地帯。

 

 ブンデールカントの貧しい農村をオディシャ(オリッサ)州と対比することで気候変動をはじめとする社会問題に加え、それぞれの土地の文化や土地への執着、家族の姿などを描きたかったのです。

 

 加藤 このように社会問題を内包した物語をドキュメンタリーではなく、劇映画として撮影された理由を教えてください。

 

 監督 インドではドキュメンタリー映画の観客は非常に少なく、教養層や学生に限られています。この映画で取り上げる問題を登場人物の感情を盛り込んだ娯楽作品のひとつとして映画館で上映し、多くの人に伝えたいと思いました。

 

 また、今回、主人公が老人であることも大きな挑戦でした。しかも、盲目の貧しいおじいさんです。

 

 加藤 主人公の人物設定が挑戦的とのことですが、主演俳優サンジェイ・ミシュラーのセリフまわしが非常に印象深く、心に残るものがたくさんありました。

 

 それから、ひとつ驚いたのが、主人公の家族などが外で寝ていること。これは気候的な理由なのでしょうか。それとも貧しいからなのでしょうか。

 

 監督 両方と考えてください。貧困のためもありますが、気候が変わってほとんど雨が降らなくなっており、水を集めるために朝早く起きなければならないので、外で寝る方が便利なのです。

 

 学校で先生に「季節はいくつある?」と聞かれた子どもが「2つ」と答えるシーンがあります。先生は「教科書に4つと書いてある」と教えましたが、主人公の老人は「2つと答えた子は正しい」と言っていますね。

 

 

人類と地球の危機を詩的表現で伝える

 加藤 インドやイランの映画では、映画の向こう側に詩の存在感を感じることが多いのですが、この作品も重要な局面で詩が登場します。

 

 監督 人類と地球が今、非常に困った状態にあるということを伝えたくて詩を使い、セリフにも詩的な表現を入れました。

 

 加藤 インドでは今も、人々の暮らしの中に詩というものが根付いているのでしょうか。

 

 監督 現代の若い人々はインスタグラムなどに詩をアップロードしています。彼らは「詩」という風に考えて愛好していないかもしれませんが、映画などを通じて詩に触れていることは確かです。

 

 高倉 私からも質問させていただきます。監督は『I  Am Kalam』などの児童映画で有名な監督でいらっしゃいますが、今回はなぜ、大人を主人公にした作品を作られたのでしょうか。


 監督 私は子どもの純粋さが好きで、子どもを主人公にした映画を作ってきました。その純粋さを通して、いろいろな社会問題をより強く伝えることができるからです。

 

 私は、この映画には児童映画のエッセンスが入っていると思っています。なぜなら、主人公のおじいさんには子どもに通じる純粋さがある。7歳、8歳の子どもと70歳、80歳の老人はかなり近いものがあります。

 

 高倉 監督は社会派の映画をたくさん作っておられますが、過去に『Babloo Happy Hai』という娯楽性の強い映画を撮られています。この作品はパーティー好きな若者たちの青春群像劇という娯楽映画っぽいつくりの中に、HIVの問題を盛り込んでおられました。


 また「家にトイレを作りたい!」というスラム街に生まれ育った少年の純粋な姿を描いた『Halkaa』という映画では、トイレの普及率が低いインドの問題を見事に描かれました。

 

 インドのいろいろな社会問題について、監督はこれからもどんどん映画を作っていかれると思いますが、例えばシャー・ルク・カーンといった有名な映画スターを起用した純粋な娯楽映画を作られるつもりはありますか?

 

 監督 私の制作活動の中心は社会のことを取り上げた映画。でも、社会問題をなるべく娯楽映画として作り、多くの人に見てもらいたいと考えています。

 

 現在、新しく計画中の作品も商業的な映画で、大スターと一緒に仕事をしようとしていますし、もし、シャー・ルク・カーンと一緒に仕事ができるなら、とてもうれしいし、躊躇することはありません。

 

 

インドの映画事情 映画が紡ぐ日印の絆

 高倉 インドでは大変、多くの言語が話されており、言語ごとに映画産業が発達しています。最近、言語圏の垣根が低くなり、地域の縛りなく多彩な映画を観られる状況が進んできたように感じますが、小規模な言語圏の映画は少し取り残されているようにも思えます。

 

 今日見ていただいた『苦い風』はヒンディー語の映画ですが監督はインド東部のオディシャ(オリッサ)州のご出身。過去にこの州の言葉であるオリヤー語の映画も作られました。小規模言語であるオリヤー映画の現状を教えてください。

 

 監督 インドではヒンディー語以外の映画はリージョナルフィルム、地方映画と言われていますが、地方映画には独自の魅力があり、近年、非常に力をつけてきています。私が撮ったオリヤー映画も高い評価を受けていますし、若い監督の作品が人気を集めるなど興行成績も良く、オリヤー映画も好調ですよ。


 加藤 今後、日本で映画を撮るような計画はありますか。

 

 監督 私はイランと韓国、そして日本の映画がとても好きです。実は今、オディシャ(オリッサ)州の古典舞踊、オディッシーダンスと家族、仲間などのテーマを盛り込んで日本とインドのラブストーリーを描く映画を企画中です。皆さんご期待ください。

 

 加藤 それは楽しみです!
 

 高倉 今日は興味深いお話を本当にありがとうございました。最後に監督からメッセージをいただきたいと思います。
 

 監督 インドと日本の関係には強いものがあります。さらに多くのインド映画が日本で紹介されることを祈っていますし、多くの日本映画がインドで公開されることを願っております。もちろん私もさらに多くのインド映画を日本に伝えたいと思っています。今日は本当にありがとうございました。

 

インド映画について語り合ったトークショー

 

第3部「芸術」 出演 インド古典舞踊団スートラ・ファンデーション 打楽器奏者スティーヴ エトウ 鳳笙奏者井原季子

 第3部「芸術」は舞踊と音楽のステージを展開。インド古典舞踊団スートラ・ファンデーションが第2部「映画」のトークショーでも話題に登ったインド東部のオディシャ(オリッサ)州発祥のオディッシー古典舞踊を披露した。


 続いて打楽器奏者スティーヴ  エトウと鳳笙奏者の井原季子が荘厳なコラボ演奏で会場を魅了した。

 

華麗で力強いオディッシー古典舞踊のステージ

 

演奏するスティーヴ エトウ(左)と井原季子

 

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