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奈良公園(奈良市)の料理旅館で文人ゆかりの酒を味わう(その4) - 大和酒蔵風物誌・第2回「江戸三から山乃かみへ」(奈良豊澤酒造)by侘助

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日本酒「山乃かみ」を冷やして 米茄子とともに

 「山乃かみ」のラベルには熱燗にしても冷やしても良しと書いてあるので、連日のこの暑さでもあるし、今回はひとまず冷酒で頂こうと決めた。冷蔵庫で冷やしているあいだ、調達してきた食材で調理をする。今回はすべて奈良県産でアテもまた「山乃かみ」のコンセプトと一致する。何と贅沢な酒席であろうか。ただ、あまり凝ったものはできないので、調理はいつも簡単である。ひき肉をごま油で炒めて、中華料理には必須のウェイパーで味付けをして、そこに茄子としいたけ、それから酒を少々を加えてさらに炒める。せっかく大きな茄子なのだから、その規模を生かすために、縦に半分に切ってこれを輪切りにして半月状に。半分にしてもなお大きいので、ひと口で食べるには難しいかもと思いながら、それでもこの茄子を味わうにはこのサイズは譲れないところだろう。最後に甜面醤(テンメンジャン)、豆鼓醤(トウチジャン)、豆板醤(トウバンジャン)で味付けをして出来上がり。茶色茶色していて見た目は悪いが、香ばしい匂いがして旨そうだ。

 

 

米茄子

 

 

人間国宝のまぼろしの酒器

 今回のぐい呑みは夏の冷酒を呑むのにぴったりな青唐津にした。「ぐい呑みは唐津、徳利は備前」といわれるほど、唐津のぐい呑みは愛好家にとって垂涎の的だが、古今を通じて人気があるのは斑唐津や絵唐津、朝鮮唐津くらいで、青唐津というとどちらかといえば地味な存在。器胎に灰をかけただけのシンプルな製法で、唐津では草創期から存在したことが推定される。だが、その地味でシンプルなところが、自己主張を控えて料理の美味しさを引き立てる豊澤さんのところのコンセプトといかにも調和する。器よりもそこに注がれるお酒を引き立てる。だが、目を凝らしてみれば、見込みに現れた窯変や腰の部分の釉だまり、高台際のちりめん皺や火色など、見処が満載。まさに逆説の美ともいうべき。

 

岡本作礼「青唐津ぐい吞み」

 

 

 作者は唐津でももはやベテランのうちのひとりである岡本作礼氏。荒々しい無骨なつくりを特徴とする唐津焼にあって、この方は、気品のある造形に特徴があって、この青唐津をみてもよくわかるように、細部のつくりにわたって神経が行き届いている。こういうぐい呑みで頂くお酒は確実にキレを増幅させる。

 

 徳利は丹波の市野信水氏の焼き締め。実はこの徳利、螺鈿の人間国宝で先日お亡くなりになられた北村昭斎氏から頂いたもの。ちょうどこの原稿を書いているときに訃報が入ってきたので、昭斎氏を偲ぶために引っ張り出してきた。氏がまだ若い頃、信水氏の個展で手に入れたとおっしゃっていたから、あるいは先代信水の作かもしれない。徳利の造形でたいせつなのは、口づくりと器胎の薄さである。くちづくりにはもちろんお酒が垂れてこないことが求められるし、器の薄さはまさに容積の問題である。いずれも当たり前のように思うが、実はこの二点をクリアしている徳利というのは意外に少ない。とくに器胎を薄くしようとすれば強度が減じて焼成中に破損する可能性が大きくなる。これを恐れて、つくり手はどうしても厚くつくりがちで、世に流通する徳利のなかには、見た目は良くても手取りの重いものが少なくない。その点、この徳利は筆者のコレクションのなかでも一番軽い。だからお酒もよく入る。この作品を手に取る度に、徳利はこうあるべしと納得する。

 

市野信水「丹波徳利」
北村昭斎氏による金繕い

 

 さらに、注目すべきは、この徳利、昭斎氏自ら金繕いをされているところだ。やきものが割れたり欠けたりしたら、漆で継いでそれを金や銀で繕うのは日本の工芸の伝統技法。本来なら割れてしまって使用不可になってしまうところ、金繕いをすることによって蘇らせる。場合によっては割れる前より良くなっていたりする。徳利は、とくに口の部分が破損しやすい。昭斎氏もこれを使っているうちに割ってしまったのだろう。本業が漆だから繕うのは簡単である。ただ、繕いの良し悪しを決めるのは一にも二にも割れ方である。繕ったときに様になる割れ方をするかどうかで、器の蘇り方も変わる。この徳利の割れ方をみると、片方は破片が残っていてそれをひっつけるようにしているのに対して、もういっぽうは破片が残っていなくてすべて金で繕っている。このメリハリというかコントラストというか、絶妙の割れ方といっていい。人間国宝の手によるというだけでも貴重なのに、美しい割れ方のおかげで、この徳利はさらに魅力的に蘇っている。

 

 炒め物を盛る器は黄瀬戸の輪花鉢。黄瀬戸は桃山時代に美濃で焼かれたやきもののひとつ。よく志野や織部と同列に扱われるが、黄瀬戸のほうが少し前の時代で先輩に当たる。食器や花入に伝世品が多いが、いずれも中国伝来の格の高い形式をまとう場合が多い。この輪花鉢もそのひとつ。作者の松村遷氏は美濃で修行された後、出身地の埼玉に戻られて主に黄瀬戸を中心に桃山陶に取り組んでいる。この方はとくに黄瀬戸に向く地元の土を自作に使用し、「本沼手」と称して作品化している。もちろん、桃山時代の黄瀬戸を追求するが、最近はその本沼手黄瀬戸のみせるさまざまな表情を試しながら、新しい黄瀬戸の世界を拓こうとしてる。この作品は、油揚肌といわれる桃山黄瀬戸の、しっとりした深みのある黄を実現している。黄色に茶色だけの料理では少し不細工なので、炒め物に五條ネギをのせた。全体がグッと締まって料理も器も魅力全開だ。

 

 

乾杯!

 では準備万端、お酒もちょうど良い加減に冷えたところで頂くとしよう。

 

 

 含んだ瞬間から口に米の旨味が広がり、喉越しもグッとくる。かといって重くならずに口当たりは爽やかでキレもいい。料理を引き立てるというコンセプトはそのまま生きているが、それだけでなくお酒としての主張もしっかりと聞こえてくる。これは旨い!。ヒノヒカリやササユリ由来の酵母がそこでどのような役割をしているかはわからないが、旨い酒であることは確か。あるいは、豊祝のスタンダード版と呑み比べすればわかるのだろうか。それもまた一興と思いながら、いずれにしろ、純米酒でこれだけ上品な味が出せるとは驚いた。瓶にはフランス語で「domaine」(地元)というラベルが貼ってあるが、それがけっして嫌味になっていない。むしろ、お酒の上品な味わいとうまく調和している。

 

 

 いっぽう、炒め物のほうも、「山乃かみ」様の名エスコートもあって上々。やはりその大きさから茄子が主役のようになったが、この大きさに切って大正解。ひと口食べてびっくりしたが、まるでステーキでも食べているよう。だいたい茄子は熱を加えると柔らかくなって原型を留めなくなるのがふつうだが、この米茄子は形を崩すどころか、歯応えをしっかり残したまま、おそらく生でそのまま食べたときのような茄子本来の味を保っている。大和ポークのひき肉がタンパク質としてあるが、茄子のほうがよほど肉っぽい。この存在感には感服した。

 

 

 「江戸三」から始まって、最後にはまた美味しいお酒と食材にありつけた。取材に協力して下さった皆さんに感謝しつつ、そろそろ酔っぱらってきたので文を締めることにしたい。美味しい地元の恵みをごちそうさまでした。(第2回了)

 

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