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逢香の華やぐ大和 正暦寺(奈良市)

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正暦寺(奈良市)を訪ねて

清酒発祥の地で酔書 発酵の香、境内に漂う

 書家の逢香さんが県内の社寺を訪ね、四季折々の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は清酒発祥の地、奈良市の正暦寺を訪れました。(高橋智子)

 

 

真っ赤な実たわわに

正暦寺にやってきた逢香さん=いずれも9日、奈良市菩提山町

 

 菩提仙川のせせらぎの音、ヒヨドリやシジュウカラの鳴き声が響く自然豊かな地にたたずむ正暦寺。秋になると緑から黄、赤色に染まる紅葉が織り交ざり、「錦の里」と呼ばれている。

 

 凛(りん)と冷える冬場の境内で、たわわに実るナンテンの木を見つけた逢香さん。「真っ赤でぷりんぷりん!」。紅葉に劣らぬ赤さに引き込まれた。

 

 境内に千株以上あるナンテンの多くは、鹿に食い荒らされてほとんどは跡形もない。そんな中、きれいに残るナンテンを見つけた逢香さん。「わ~きれいに実ってますね! 華やぐわ~…」。深緑と赤の対比に見とれた。

 

真っ赤に実るナンテンの木。「難を転じる」縁起の良い木とされる

 

赤い実は他にも。万両

 

 

数奇屋風建築の福寿院

 境内には高く積み上げられた石垣があり、かつての隆盛を物語っていた。石垣の上に立つ福寿院(江戸時代、国重要文化財)は、数寄屋風建築の趣あるたたずまい。大自然を見渡す借景庭園や京狩野派3代目、狩野永納によるふすま絵を拝観できる。

 

大自然を借景とする福寿院の庭園

 

 逢香さんは仏様の前に座り、2体の愛染明王像の間に鎮座する「孔雀明王像」(鎌倉時代、県重要文化財)に目を留めた。孔雀は毒蛇のコブラを好んで食べる習性があることから、心身の毒を取り除き、厄難を払う仏様として信仰されているという。

 

 「よく見ると孔雀の羽がおしゃれな感じですね」。背に孔雀の羽を広げ、仏様はおすまし顔をしている。

 

福寿院の孔雀明王像

 

 

酒母造りお披露目「清酒祭」

 訪れた1月9日、境内では酒の元となる酒母「菩提酛(ぼだいもと)」造りをお披露目する清酒祭が開かれていた。

 

 人より大きなたるで酒米約300キロを蒸す湯気に包まれ、「酸っぱいような、甘い香りがします!」と逢香さん。甘酒のような甘さ、ぬか床のような酸っぱさが混ざる発酵の香りが辺りに広がった。

 

蒸し米を広げて冷ます正暦寺の菩提酛造り。冬の風物詩だ

 

 米が蒸し上がると麻布に広げて冷まし、乳酸菌を含む「そやし水」が入ったタンクで米こうじと合わせてかき回す。「一から造っているのがすごいですね…」。逢香さんは工程を見守った。

 

 同寺では、菩提酛の元となる貴重なお酒「菩提泉(ぼだいせん)」(1本税込み1万6500円)や、菩提酛で奈良の酒蔵7社が仕込んだ日本酒を福寿院で販売。3月31日には奈良市の酒店、なら泉勇斎で「菩提酛新酒を楽しむ会」が開かれる(有料)。

 

 

さまざまな味わい奈良の酒

 実は日本酒好きという逢香さん。「菩提泉」を一口含み、「おいしい!」と第一声。「フルーティーで女性でも飲みやすい。甘くてワインみたいです」と飲み干した。

 

清酒を堪能する逢香さん

 

 続いて味わったのは、桜井市の今西酒造が菩提酛を使って醸造した純米酒「三諸杉」。同社の今西将之代表(39)から「複雑で重層的な味」と聞いた逢香さんは、「最初に辛さが来るんですけど、後からしっかり甘さも香りも来ます。確かに複雑…。おいしいです!」と笑顔になった。

 

 このほか、蒸した酒米のおせんべいや粕(かす)汁もいただき、正暦寺の酒のうまさが五臓六腑(ろっぷ)に染み渡った。

 

 ※取材は1月9日。天候、気候などで草花の状態や景観が変化することがある。

 

 

室町時代の醸造技術・蔵元有志が復活した菩提酛

 正暦寺の酒造りは、室町時代を中心に約200年間続いたが、江戸時代に寺領を減らされるなどして途絶えた。

 

 1996年、県内若手蔵元の有志が集まり「県菩提酛による清酒製造研究会」を設立。酒母の菩提酛造りを古い資料の研究から始め、正暦寺、県工業技術センター(現・県産業振興総合センター)と再現した。

 

 98年に酒母の製造免許が下り、寺院醸造が復活。それ以来、20年以上寺とともに菩提酛を造り続け、それぞれの蔵に持ち帰り菩提酛純米酒を醸造している。

 

 さらに同会は、室町時代の『御酒之日記』が伝える醸造方法で現在の日本酒の礎となった酒「菩提泉」を復活。21年から本数限定で販売している。

 

 同会会員と菩提酛で仕込んだ純米酒は次の通り。

 

 今西酒造=三室杉▽上田酒造=嬉長▽葛城酒造=百楽門▽菊司醸造=菊司▽北岡本店=八咫烏(やたがらす)▽倉本酒造=つげのひむろ▽油長酒造=鷹長

 

寺とともに菩提酛を造り続ける「県菩提酛による清酒製造研究会」の蔵元たち

 

逢香の目

完成した作品を手にする逢香さん

 

 逢香さんは、冬を彩る真っ赤なナンテンの実を、赤い和紙をパンチで丸く抜いて表現。清酒発祥の地で、酔いながら書いたような酔書で「清一杯」と揮ごうした。

 

 逢香さんは「赤い実がきれいでウキウキしました。奈良のお酒の味は種類がさまざまと聞きましたが、2杯飲んだだけでも全然香りが違うと感じました」。

 

 1杯と言わず2杯飲んだ逢香さん。酔書で書いたが「酔ってませんよ」と結んだ。

 

 

メモ

◆正暦寺

 奈良市菩提山町157。JR帯解駅から東に徒歩約1時間30分。タクシーでJR・近鉄奈良駅から約25分、JR・近鉄天理駅から約20分。秋の紅葉シーズンはJR奈良駅と近鉄奈良駅から奈良交通の直通バスが出る。拝観時間は午前9時~午後4時(11月は午後5時閉門)、受け付けは閉門の30分前まで。拝観料は中学生以上500円、小学生200円。春季と秋季の特別拝観期間は別料金。電話:0742(62)9569。

 

◆書家/逢香(おうか) 奈良市在住。奈良市観光大使。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学で変体仮名の授業をきっかけに個性豊かな妖怪たちに興味を持ち「妖怪書家」としても活動。

 

 

 「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で1月16日に放送。

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