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金曜時評

奈良の鹿「虐待」問題 共生考える機会に - 編集委員 高瀬 法義

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 「奈良の鹿愛護会」が運営する「鹿苑(ろくえん)」内に収容された鹿に十分な餌を与えないなどの虐待の疑いがあるとして、同会の獣医師が内部通報した。県や奈良市が実態調査に行っているが、同会は「餌は十分に与えている」と反論している。「奈良の鹿」は奈良のシンボル的な存在だけに全国的なニュースとなった。

 

 奈良の鹿は春日大社の「神鹿」として古くから保護されてきた。しかし、明治維新後の一時、有害獣とされ38頭まで減少。そのため、鹿の保護を目的に民間で「春日神鹿保護会」が組織された。戦後改称して愛護会となり、現在も保護活動を担っている。

 

 ただ、奈良の鹿は愛護会に飼われているのではなく野生動物だ。観光用の鹿せんべいなどを除くと餌も与えられず、奈良公園の芝生や草木が主食となっている。

 

 県が委託し愛護会が管理する鹿苑では、病気やけがの鹿、出産間近の雌鹿などを保護。これとは別に、近隣の農地を荒らした鹿も収容している。鹿の農業被害は以前から問題となっており、1979(昭和54)年には奈良公園周辺農家が損害賠償を求めて県などを提訴。85年に和解が成立した。

 

 その時の和解条項を発展させた県の保護計画(2022年4月策定)では、奈良公園や春日山原始林などを「保護地区」に指定。外側を「管理地区」とし保護の対象外とした。さらに両地区の間に「緩衝地区」を設け、農林業被害に柔軟な対応を行っている。

 

 今回、問題となっている鹿苑の「特別柵」は、緩衝地区で農作物被害防止用の罠で捕獲された鹿を収容するエリア。本来、愛護会の活動は保護地区の鹿が対象となるが、行政との取り決めで引き取って管理している。農作物の味を覚えた鹿は必ず田畑を狙うので無期収容となる。普段は山などに住み、人に慣れていない鹿が多いという。通報では毎年50頭以上が死んでいるというが、餌が少ないためか、ストレスのためなのか分析が必要だ。管理の実態も含め、県や市の調査結果を待ちたい。

 

 シカの農作物被害は全国的に深刻化しており、他の地域では特別柵の鹿は駆除対象だ。国の天然記念物に指定され、貴重な観光資源にもなっている奈良の鹿は特別なケースといえる。

 

 今回の問題は、千年に及ぶ奈良の鹿との共生の在り方を改めて考える機会といえる。「虐待」という言葉が一人歩きしているが、「かわいそう」という感情論だけで判断してはいけない。

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